資産形成を行う手段としては、投資信託や株式投資、社債投資などさまざまなものがありますが、会社員であれば財形貯蓄やiDeCoといった商品をよく耳にするかもしれません。
それぞれ毎月一定のタイミングで積み立てるように資産形成をしていくという点では同じ特徴を持っている二つの商品ですが、この違いについてあまり理解出来ていないという方も多いでしょう。
そこでこの記事では、財形貯蓄とiDeCoのそれぞれのメリットを比較しつつ、どんな点が違うのかについて解説します。
また、合わせて財形貯蓄とiDeCoが併用できるのかどうかについても分かりやすくご紹介しますので、これから資産形成を始めていきたいという方は参考にしてみてください。
財形貯蓄とiDeCoの違いとは?
財形貯蓄もiDeCoも、老後の資産形成のために国が推奨している資産形成方法となっています。
通常、資産形成をしていく上ではさまざまな税金が発生します。
例えば株式投資であれば、運用益に対して約20%程度の課税がされるなど、背負っているリスクに対して相応の税金を支払わなければなりません。
しかし、財形貯蓄やiDeCoは、どちらも高い税制優遇が設けられており、多くの個人の資産形成方法として非常に魅力的な商品と言えます。
ここでは、両者にどのような違いがあるのかや、それぞれの手法で資産形成を行うことのメリットについて解説します。
財形貯蓄とは?
財形貯蓄とは、主に老後の資産形成のため、国と会社が連携して従業員の資産形成を支援する制度のことを言います。
1971年に制定された「勤労者財産形成促進法」に基づいて運用されており、制度自体は非常に長期間に渡って存在しているのが特徴です。
財形貯蓄での資産形成方法は、毎月の給与からの天引きによって行います。
自分が設定した金額が毎月給与から天引きされる形で積み立てられていきますので、上手に活用すれば計画的に貯蓄できるというのが強みです。
ただし、先ほど触れた通り財形貯蓄は会社も関係してくる制度になるため、勤務先が財形貯蓄の制度を導入していなければ加入できない点には注意が必要です。
そのため、まだ財形貯蓄を始めていないという方は、勤め先に財形貯蓄の制度が設けられているかどうかを確認する必要があります。
財形貯蓄には、「財形年金貯蓄」「一般財形貯蓄」「財形住宅貯蓄」と3つの種類があります。
それぞれ給与からの天引きで積み立てることは同じですが、その他の点でいくつか違いがありますので、しっかり理解しておきましょう。
財形年金貯蓄 | 財形住宅貯蓄 | 一般財形貯蓄 | |
用途 | 60歳以上になったら受け取る年金 | 住宅購入やリフォーム | 自由 |
加入条件 | 54歳まで | 54歳まで | なし |
積立可能金額 | 合算して550万円まで | 上限なし | |
積立期間 | 5年以上 | 5年以上 | 3年以上 |
このように見てみると、用途の限られていない一般財形貯蓄を始めたいと思うかもしれませんが、一般財形貯蓄の場合は預貯金の利息や投資信託などの配当金に20.315%の税金がかかってきてしまいます。そのため、税制優遇の面だけで見れば、一般財形貯蓄はただの貯金と変わらず、あまり選択するメリットがないと言えます。
一般的にiDeCoと比較される財形貯蓄は、財形年金貯蓄のこととされています。
原則60歳になるまで積み立てた金額は引き出せなかったり、5年以上の積み立てが必須となっているなど制限があるものの、その積み立て金額をまるまる非課税で受け取れるのが最大の特徴です。
ちなみに、財形年金貯蓄は60歳を迎えてから年金として引き出さないと「解約」扱いとなってしまい、課税の対象になる点には注意が必要です。
また、財形貯蓄のもう一つの注意点として認識しておかなければならないのは、「財形貯蓄に加入できるのは会社に制度がある場合のみ」という点です。
例えば現職で財形貯蓄を活用していた人が転職する場合、転職先に財形貯蓄制度がないと継続加入することができません。
もし財形貯蓄がない会社に転職した場合、一定期間後に課税扱いで資産を受け取ることになります。財形貯蓄のメリットがほぼなくなってしまいますので、転職時には特に注意が必要になります。
財形貯蓄のメリット
財形貯蓄の最大のメリットは、なんといっても非課税になるという税制優遇があることです。
財形貯蓄で資産を運用している間は、一般財形貯蓄を除き元本550万円までが非課税となります。もちろん、最後の受け取り時も非課税になるため、普通預金で資産形成するよりもはるかにお得に貯蓄を進められます。
また、目的に合わせた資産形成を無理なく継続的に進められるというのも大きなメリットと言えるでしょう。
財形年金貯蓄は老後の生活資金、財形住宅貯蓄は住宅資金と、それぞれライフイベントの中でもまとまったお金が必要になるタイミングに向け、目的を持った資産形成が可能です。
加えて、給与からの天引きで積み立てを行なっていくことになりますので、貯蓄し忘れというミスを未然に防止することができます。
手元にお金があると使ってしまうという方は、特に財形貯蓄などの制度を活用し、「半強制的に」でも資産形成を行なっていくのもおすすめです。
他にも、iDeCoにはない財形貯蓄ならではのメリットとして、「財形持家転貸融資」が活用できることも挙げられます。
財形持家転貸融資とは、住宅の建設や購入・リフォームに活用できる公的な融資制度であり、財形貯蓄残高の10倍以内・最高4,000万円までの金額を低金利で融資してもらえるという制度です。
場合によっては普通に銀行で住宅ローンを借りるよりも低い金利で融資してもらえますので、上手に活用していくとよいでしょう。
ちなみに、財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄は、用途以外の目的で引き出してしまうと通常通りの課税がされてしまいます。
元々財形貯蓄で非課税になるのは預金利息であり、その預金利息も現状は0.001%程度となっているため、非課税となる金額的なメリットは少ないですが認識しておく必要はあります。
iDeCoとは?
iDeCoとは国が定めている私的年金制度の一つであり、国民年金や厚生年金といった公的年金とは別に給付が受けられるプラスアルファの年金です。
公的年金と大きく異なる点は、加入が任意であること。20歳以上65歳未満の人であれば、会社員だけでなく自営業者や専業主婦(夫)も加入できるようになっています。
それに加えて、掛金の金額も上限の範囲内で自分で設定し、掛金の運用方法も自分で指定するという点が大きな特徴となっています。
運用と掛金を自分で設定するということもあり、運用方法によって将来受け取る年金額が異なる点に注意が必要です。
また、掛金自体は毎月の積立型となっており、最低5,000円/月から始められるようになっています。
上限額については、自身の職業によって異なりますので認識しておきましょう。
- 自営業者:68,000円/月
- 専業主婦:23,000円/月
- 会社員:12,000円〜23,000円/月
- 公務員:12,000円
iDeCoは私的年金制度の一つということもあり、掛金を原則60歳まで引き出すことができないという点に注意しておきましょう。
もし仮に途中で解約したとしても掛金は引き出せませんので、家計の変動などがあった場合は、毎月の掛金額の引き下げをするといった運用方法がおすすめです。
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iDeCoのメリット
iDeCoのメリットは、なんといっても非常に強力な税制優遇措置があることです。
以下の3つの税制優遇が受けられるため、お得に老後の生活資金を貯めていくことが可能です。
- 掛金の全額が所得控除される
- 運用中に得られた運用益は全て非課税
- 年金として受け取る時は、退職所得控除や公的年金等控除の対象になる
まず第一に、掛金の全額所得控除ですが、これは掛金の年間合計額がその年の課税所得からまるまる差し引かれる形となります。
そのため、翌年度に支払う所得税や住民税を軽減することに繋がるのです。
仮に年収500万円の会社員が毎月の掛金10,000円でiDeCoに加入したとすると、住民税と所得税の合計24,000円の軽減を受けられることになります。
第二に、運用中に得られた運用益が非課税になるという点ですが、iDeCo加入後は掛金を自分の指示で運用していくことになります。
運用商品の中には、安全性の高い定期預金のほか、多少のリスクを取る投資信託なども選択できます。
通常、投資信託の運用益や預貯金の利息については20.315%の課税がかかってきますので、仮に100万円の運用益を出せたとしても、手元に残るのは約80万円となってしまいます。
しかし、iDeCoで得た運用益については全額非課税となるため、普通に投資による資産形成をするよりも圧倒的に有利に運用ができると言えます。
第三に、受取時に一定額が非課税になることです。
iDeCoをしっかり積み立てていけば、60歳〜75歳の好きなタイミングで、好きな受け取り方法を選んで年金が受給できるようになります。
年金として分割して受け取る際は「公的年金等控除」、一時金としてまとめて受け取る際は「退職所得控除」が適用されますので、控除を利用して最大限の受給を受けられるようになっています。
税制面で非常にメリットの多いiDeCoであり、財形貯蓄と比較するとiDeCoの方が強いメリットがあると言えます。
ただし、iDeCoにはいくつか注意すべきポイントがあります。
まず、運用方法と状況によってはもらえる年金額が減少することもあるということです。
iDeCoでの運用先をリスクの高い商品のみにしてしまうと、年金額が掛金よりも少なくなってしまう可能性があります。もちろん増える場合もありますが、安定性を意識するのであれば、運用商品はうまくバランスを取っておくことが大切になります。
また、iDeCo活用には各種手数料がかかってくるのも注意すべきポイントです。
加入時だけでなく、口座管理手数料や事務手数料など、さまざまな面で少しずつ手数料の支払いが必要になります。手数料は数百円〜数千円程度ですので、節税効果からすれば微々たるものですが、認識しておく必要はあるでしょう。
財形貯蓄とiDeCoは併用可能!
財形貯蓄とiDeCoは併用することができます。
最も税制優遇的な意味で望ましい資産形成方法としては、一般財形貯蓄以外の財形貯蓄をしつつ、iDeCoを年間の上限額いっぱいまで掛金支払いすることです。
ただし、どちらの商品も貯蓄ではあるものの家計からすれば毎月の固定費となっていきます。
上限額を意識しすぎて、目の前の生活が苦しくなってしまっては本末転倒です。
無理のない範囲で積立を行いつつ、活用できる税制優遇は可能な限り活用していく意識を持っておきましょう。
まとめ
財形貯蓄もiDeCoも税制優遇を受けながら将来のための資産形成ができる非常に優秀な制度です。
制度上はどちらの商品も両立して活用することができますが、より税制優遇のメリットが大きいのはiDeCoとなっています。
iDeCoは各種金融機関で加入することができますので、気になる方はホームページをチェックしてみてください。
また、iDeCoのみならず資産形成の知識を広く知りたいという方は、資産形成比較ランキングのページもご覧ください。